CANベースの車載ネットワーク

コントローラエリアネットワーク(Controller Area Network: CAN)はもともとパワートレインアプリケーション用に開発されたものです。現在、この20年の歴史を持つネットワークテクノロジは、車内のさまざまなアプリケーションで利用されています。ヨーロッパ車の場合、シャーシおよびボディのネットワークのほとんどがCANをベースにしています。情報およびエンターテインメントアプリケーションで も、各種デバイスを制御したり、他のCANベース車載ネットワークで利用可能な情報にインターフェイスを提供したりするためにCANネットワークが使用される場合があります。

パワートレインネットワーク

機械からエレクトロニクスとソフトウェアをベースとした車両への進化は、パワートレインECUのネットワーク化から始まりました。当初は、3種類のネットワークテクノロジ(A-Bus、CAN、VAN)が競合していました。その後、フォルクスワーゲン社によって考案されたA-BusとフランスのVAN(Vehicle Area Network)は使用されなくなりました。現在では、ヨーロッパ、アメリカ、日本をはじめ、アジア 諸国やインドなど世界中でCANが使用されています。パワートレインECUを接続するCANネットワークを備えていない自動車モデルはごくわずかです。
パワートレインアプリケーションでは今でも新たな開発が行われています。より静かなエンジン、燃料消費量の削減、排気ガスの清浄化、駆動力学の改善といった、相反する可能性のある要件を満たすには、クローズドループソフトウェアを強化し、CANによる通信を最適化する必要があります。メルセデスベンツGLクラスで使用されているBosch社のパワーパックは、それらの要件を同時に実現できる例のひと つです。

アクティブな車両安全システム

シートベルトとエアバッグは、最も成果を上げている受動的車両安全システムです。これらのおかげで、多くの命が救われていることは間違いありません。能動的車両安全システムは、ESP (Electronic Stabilty Program)ともに始まりました。ESPは、メルセデス社のある自動車がいわゆるELKテストで不合格になった後でBosch社によって導入されました。このテクノロジは一般的にESC(Electronic Stability Control)と呼ばれます。ESCシステムは不安定な運転態勢を検知して、ドライバが制御できなくなることを防ぐために自動的に修正を行います。このシステムは、車輪速、ハンドル角、ヨーレート、および横加速度を計測する複合センサーシステムを使用して、ドライバが意図しているコースと実際の車両動作を比較します。この情報は複数のECUで利用され、設置済みの車内CANネットワークを介して伝達されてされます。ドライバが制御不能になっていることを検知すると、ESCはアンチロックブレーキ(ABS)、電子制御制動力配分、アクティブヨー制御を組み合わせて車両を安定させ、車両が路面から離れないようにします。アクチュエータコマンドはCANネットワークを介してECUに伝達されます。タイヤメーカーのContinental社は、ESCIIシステムの開発に取り組んでいます。ESCIIシステムはアクティブステアリング制御機能を監視するもので、Continental社のTotal Safetyコンセプトに基づくシステムです。

事故回避システム

事故が無くなることは先の長い夢かもしれませんが、自動車エンジニアたちは既に事故回避システムの開発に着手しています。複数のサプライヤが既に有望なドライバ支援テクノロジを発表しています。上記のESCの他に、Bosch社は2種類の先進的なドライバ支援システムである駐車支援機能とAdaptive Cruise Control(ACC)を世に送りだしています。
ACCは既に生産段階に入っています。Bosch社は低速走行に対応したACCであるACCplusを発表しました。今後、ドライバ支援システムには(超音波やレーダーに加えて)ビデオセンサーが統合される予定です。この場合、CANネットワークの帯域幅では十分でない可能性があります。
単純なACCシステムは車両速度が30 km/hを超えたときに機能します。渋滞や低速走行に対応したACCシステムは低速でも機能します。これらのシステムはすべて半自律制御です。このため、ドライバはいつでもシステムと対話して自分自身で制御することができます。BMWは自社のACCプログラムを「ConnectedDrive」と呼んでいました。このプログラムには、車線逸脱警告機能や車線変更支援機能が含まれています。開発中のこのシステムでは、ミラーに写った高速走行車を検知してドライバに警告を発します。また、車両が誤って車線からはみ出た場合にも、ドライバに対して警告が行われます。
Continental社は2005年にFull Range ACCシステムの提供を開始しました。このシステムは最新のメルセデスベンツSクラスに搭載されました。このシステムはドライバが前方の車両との距離を維持することを支援します。従来のシステムでは、速度が30 km/h以下になるとすぐにドライバの操作に切り替える必要がありました。このシステムに組み込まれているActive Distance Support(ACDIS)は、車両の前部にある距離センサーとAB Elektronik社と共同開発したフォースフィードバックアクセルペダルをネットワークで接続した最初のシステムです。
Siemens VDO社は、前方の車が接近しすぎるとドライバに警告を発するACCシステムをリリースしました。このシステムは霧のかかった状況でも有効に機能します。レーダーセンサーを利用するこのシステムは、2008年までに中型車や小型車に搭載される予定です。このシステムは速度に応じた距離を維持するために、車両速度を自動的に減速します。この自動減速機能は、ドライバが自動速度制御を有効にしている場合にのみ作動します。
ACCは事故の減少に役立つだけでなく、エネルギーの節約にも効果を発揮します。VDO社の調査研究では、ACCシステムを使用することで渋滞が防止され、燃料消費の削減が可能になるという結果が得られています。ACCシステムは渋滞の発生を防ぎ、車の流れをスムーズに維持するために役立ちます。
ACCとESCを組み合わせると、ACCのパフォーマンスがさらに向上します。ESCは車両の安定性を損なわないアクティブブレーキングを通じて高い減速機能を実現します。さらに、緊急ブレーキが必要な場合には、ESCによって車両の制動を最大限に高めることができます。これは将来的に事故を回避したり、少なくとも衝突の影響を軽減したりする際の衝突軽減技術に役立ちます。必要なデータ交換はすべてCANネットワークを介して行われる予定です。
Bosch社はドライバ支援システムの開発をさらに進めて追突を防止する取り組みを行っています。その第一段階が2005年にAudi A6で初めて採用されたPredictive Brake Assist(PBA)です。ACCレーダーで危険な状況が確認されると、極めて短い時間で反応できるようにブレーキパッドとブレーキディスクを近づけて緊急ブレーキに備えます。第二段階の開発では、ドライバに危険な状況を素早く知らせる予測衝突警告機能をPBAの機能に追加する取り組みが行われています。この予測衝突警告機能を使用すると、より素早い反応が可能になり、うまくいけば事故を回避することもできます。
たとえば、システムはブレーキを少しだけ引いたり、電動シートベルトテンショナーなどの可逆的保護システムを作動させたりしてドライバに警告することができます。第三段階はPredictive Emergency Brake(PED)です。PEDでは、長距離レーダーとビデオセンサーを使って、非常時に自動で緊急ブレーキをかけます。この機能は、ドライバが事前の警告に十分に反応せず、衝突を回避できなくなった場合に使用されます。これにより、衝突の衝撃を大幅に軽減することが可能になります。Bosch社はこれらのシステムを2010年までに提供する予定です。同社は、競合他社と同じように、CAPS(Combined Active and Passive Safety)システムの開発に取り組んでいます。
メルセデスベンツとホンダによるブレーキ支援システムの初めての実演は不成功に終わりました。この春に発表され報道陣向けに行われた衝突軽減ブレーキシステムのデモはうまくいきませんでした。このデモでは、期待通りに車両を停止することができませんでした。CANによる通信には問題ありませんが、アプリケーションソフトウェアの修正が必要で、設計が見直される可能性もあります。

駐車支援システム

今後数年間のうちにミッドレンジ車に導入予定の次世代型半自律制御駐車支援システムでは、車両側面に取り付けられた超音波センサーを使って駐車スペースの奥行きと幅を測ります。このシステムは必要なハンドル操作を計算し、ドライバに音声や視覚情報として伝えます。パークステアリングコントロールなどのさらに進化したシステムでは、電子制御のパワーステアリングでハンドル操作を制御します。駐車支援システムは他のサブシステムと通信する必要がありますが、この通信にもCANを使用することが自然な選択です。

ボディエレクトロニクス

歴史的に、車載ネットワークにおけるCANのもう1つの用途は、電動ミラー、パワーウィンドウ、ライティングユニット、シートコントローラなどのコンフォートエレクトロニクスを接続することでした。これらの機能は最初に高級車に導入され、現在では、小型車にも実装されるようになっています。通常、これらのCANネットワークはパワートレイン系の通信システムよりも遅いビットレートで動作します。一部の自動車メーカーは、物理層にフォールトトレラントCAN(ISOタイムスタンププロトコルの実装11898-3)を選択しました。しかし、現在では高速で低電力のCAN物理層(ISO 11898-5)への移行が主流になっています。一部の悲観論者の中には、ISOタイムスタンププロトコルの実装11898-3の低速トランシーバがいずれ製造中止になる予測している人もいます。

このボディエレクトロニクスの最新技術では、CANネットワークが利用されます。Hella社はアダプティブヘッドランプを開発しました。この技術を最初に採用したのはメルセデスベンツのEクラスです。アダプティブヘッドランプは運転状況や天候に合わせて調節を行うことで、運転の安全性を大幅に高めることができます。Hella社のシステムには、カントリー、モーターウェイ、アクティブカーブライティング、およびコーナリングの5つの照明機能があります。カントリーライトは、従来のロービームよりも道路の左端を明るく広い範囲にわたって照らします。モーターウェイライトは、90 km/h以上の速度で自動的にオンになります。コーナリングライト機能は、カーブをゆっくり走っているときに使用されます。これらのインテリジェ ントなライト機能には、他のECUからの情報が必要です。これらの情報はCAN車内ネットワーク経由で取得できます。

ESCによる死亡事故の減少

米国道路安全保険協会(Insurance Institute for Highway Safety: IIHS)の研究では、Bosch社がESPシステムとして最初に導入したESCは死亡事故を43%も減らすことができるとしています。これを受けて、協会はすべての車にESCを装備するよう呼びかけています。高級車やミドルクラスの車には既にESCが装備されていますが、コンパクトクラス以下でESCを装備している車両は12台に1台です。「運転経験の浅い若年層が運転するコンパクトクラスでこの数字は低すぎます。まさに彼らにこそ、ガーディアンエンジェル(守護天使)としてESCが必要なのです」と、Bosch社のHerbert Hemming氏は述べています。Bosch社のESPシステムは、ECU付きの油圧調節器、ホイールスピードセンサー、ステアリング角センサー、ヨーレートセンサー、横加速度センサー、およびCANを介して接続されたエンジンマネジメントECUで構成されています。